Afternoon tea time




いつもの道筋を辿り、フランスは一軒の屋敷の前に立つ。
慣れた手つきで門をくぐり、屋敷へと続く石畳を軽い足取りで進む。
目の前に広がる庭では、花や木が今日も生き生きと息づき、
豊かな芳香を放ち、葉を揺らしていた。
その中に溶け込むように、見慣れた金色が佇んでいた。
その瞳は満開に咲き誇った薔薇を誇らしげ見つめ、讃えるように触れ、
また、同じ手で盛りの過ぎた薔薇を慈しむように撫でて、そっと摘んだ。
花の一生を見守るイギリスの姿は、どこか神聖な空気に包まれ
凪いだ風のように穏やかに見えた。

フランスはそんなイギリスの様子にふっと目を細めたあと
目の前で可憐に咲くピンク色の薔薇を見つめ、驚かせないようにそっと触れた。
綺麗に色づいた花弁を綻ばせ咲く薔薇は、フランスの目と心を楽しませる。
「今日も綺麗だね。生き生きして美しいよ……イギリスに愛されてる証拠だな」
そう語りかければ、薔薇が応えるように葉を揺らした気がした。
動植物には無条件の愛情を注ぐイギリス……
「俺にももう少し愛情をかけて欲しいんだけどね……」
薔薇を相手にフランスは本音を零し苦笑した。

さて、そろそろ坊ちゃんに声を掛けに行こうかとフランスは再び歩み始めた。
まだこちらには気付いていないらしく、変わらずに背を向けたままだ。
ここからでは聞き取れないが、妖精とでも話しているのだろう。
イギリスは時折宙に向かい、何事か言っていた。
そして、ふいにこちらを振り向いた。

ばっちりと目が合ってしまったイギリスに些か驚きつつも、
フランスは笑みを浮かべ「よう」と手をあげた。
いつもはアポなしで訪れると途端に迷惑そうな顔を浮かべ、嫌味が飛んで来るのだが、
今日は眉を顰めるだけに留まった。
珍しいこともあるものだと思いながら近寄ると、イギリスはおもむろに口を開いた。

「今日はとっておきの紅茶を入れてやるよ! 
 ……それから、薔薇のジャムも持っていけよな!」

一束に捲し立てると、ふいっとそっぽを向いた。
口調や態度はさておき、思わぬ歓待に驚いてぽかんとした顔をしていると、
フランスを盗み見たイギリスが、たちまち頬を染めて言い募った。

「べ、別にお前の為じゃないんだぞ!
 ……薔薇の精がお前にあげたいって言っただけだからな!」

言い終わると気まずそうに俯き、視線を逸らされてしまった。
イギリスのまだ赤い顔を見ながら、きっとさっきのピンクの薔薇の精が
フランスの想いを伝えてくれたのだなと知る。
目に見えないちいさな可愛い妖精に、心の中で感謝の言葉を贈った。

「じゃあ、おにいさんはとっておきの紅茶に合うとっておきのお菓子を提供致しましょう」

ほんわりと躍る気分に合わせ、わざと芝居がかった調子で言えば、
そっぽを向いていたイギリスがお菓子の言葉にピクリと反応を示す。
そして、チラと視線を流し、フランスの持つ箱を見遣る。
昔からお菓子に弱いところは変わらない。
フランスは手にした箱を軽く掲げた。

「いちじくのミルフィーユ、お前好きだろ」
「……勿体ないから食ってやるよ」

「merci」

フランスはどうにも素直になれないイギリスを愛しく思い、
くつくつと笑いながら礼を述べた。



 

初仏英。ヘタレだけど包容力あるフランス希望。  
お菓子サイトを見てお菓子に悩んでました。  
一行で名前しか出て来ないのに(笑)  
お庭をお手入れするイギイギが好きです^^  

2009.11.13 千穂  

 

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