恋愛的瞬間
薄く張った膜越しにくすくすと笑い声が聞こえる。
それは眠りの狭間の出来事。
「おい、こら! お前達」
「なあに、イギリス?」
「折角寝てんだから、からかうなよ!」
頭の側で何かを振り払う気配と少しの風。
「えーだって無防備で可愛いんですもの」
イギリスの制止などもろともせずに、妖精達は『ねー』と笑い合って
すよすよと寝息を立てて眠るアメリカに再び近付く。
そして、そのふかふかで柔らかそうな頬に触れたり、
窓から差し込む陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪に指を搦めた。
胸にピリリと走る焦げるような気持ちを抑えきれずに
イギリスは妖精たちを睨め付けてみたが、彼女達はお構いなしだった。
フフフと笑いながら淡い光とともに手の平から出した花びらで
幼い顔で眠るアメリカを飾る。
甘い香りを放つ色とりどりの花びら達、
いつもならその匂いに癒されるはずなのに今は無性にイライラする。
「お、お前達、いい加減にしろよな!」
苛立ちのままに発した声は思いも寄らず大きく、
イギリスはハッとして自分の膝の上で眠るアメリカを見下ろす。
うるさそうに眉が顰められたが、良かった、まだ起きていない。
「ねぇ、どうしてそんなに不機嫌なの?」
「きっと焼きもちよ」
「そうね、私達に嫉妬しているのね」
にぎやかな妖精達は口々に語る。
……焼きもち、嫉妬……
胸を占める気持ちの正体に名前を付けられて、カーッとイギリスの頬が染まった。
「な、何言ってんだよ! ばかぁ!!」
「やだ、イギリス、大きな声出さないでよ」
「ああ、もう目を覚ましてしまうわ」
「残念ね」
妖精達は動揺するイギリスをそのままに、
アメリカの側から離れ、ふわりと飛び立つと
イギリスを中心に円を描くようにその頭上まで飛び立った。
パチンと何かが弾けるような音とともに目を覚ますと、
目の前にはイギリスの顔。
そして、キラキラとした粒子を纏いながらその頭上から舞い降ちる花びら。
はらはらと落ちてくる赤やピンクの薔薇の花弁。
その中心に頬を真っ赤に染めたイギリス。
きれい、とてもキレイ。
どの花びらよりもイギリスの頬の色が鮮やかに映った。
そのキレイに触れてみたくてそっと手を伸ばす。
指先が触れるとビクンと震え、イギリスは目を伏せた。
身動いだ拍子に頭上の花びらがするりと髪を伝い、目元を掠め落ちて行く。
赤い、その花びらの色を吸い取ったようにイギリスの目元が染まる。
そして、ひらりと揺らめきアメリカの頬に落ちた。
花びらが落ちたその場所からぶわっと全身に広がる何か。
アメリカの心に赤い色が灯る。
恋に落ちたのは、この時だった。